「アナウンサーらしくなってきたね」から、「辞めちまえ!」迄。
前回は、
「なぜ私は『CHA-CHA-CHA』で踊れるのか。」の理由で〆てしまいました。
本日は本題に戻り、
ややマジメに「プロの声」について。
「バカヤロウ!辞めちまえ!」と怒鳴られていたピヨピヨ新人だった頃のエピソード付きです(^^;
前回の投稿にもある通り、
私は東京で仕事を始める前に、
札幌の放送局にてTV番組の司会とリポーターを務めながら、
発声や滑舌の訓練、いわゆるボイストレーニングを受けていました。
ディレクターに見本としなさいと言われた、
先輩キャスターであるAさんのようなよく通る高めの声に、
少しでも近づこうとイメージしながら。
結果としては、
週に2日のトレーニング受講と、
毎日の自主トレを続けて約3ヶ月後から変化を実感しました。
発声時に声が出やすくなったことと、
同時に大きめの声も長時間安定して発声できるようになりました。
私が受けていたボイストレーニングの内容は、
前述のダンス(^^;)と、
腹筋を鍛える運動が全体の2割、
そして腹式呼吸で発声を繰り返す練習が3割でした。
①長音(呼吸が続く限り、あーーと長く発声する)、
②短音(腹筋を使って、はっ!はっ!はっ!と短く音を切る発声)で基礎の発声を鍛えていきました。
文字だけで見ると、簡単そうに感じられるかもしれません。
①②は誰でもできる練習です。
でも、誰でも声帯に負担をかけてしまう練習でもあります。
声帯に必要以上に負担をかけてしまうと、
発声練習のために行っていることが逆効果となってしまいます。
喉の筋肉を傷めてしまい、声がかすれたり、ポリープができてしまったり、
ひどい場合は声が出なくなってしまいます。
我流での発声練習や、
大声で仕事をしなければいけなかった方によくあるケースとして、
「焼けた声」になっていることもあります。
「焼けた声」とは、あくまでも声の種類表現のひとつで、
ガラガラした声、かなりかすれた声を表しています。
お酒を飲みながら大声で長時間おしゃべりorカラオケした翌日は声がガラガラになって、
「うわ~、喉が酒焼けしちゃったよ~」なんて言ってる方もいらっしゃるかと。
そう、その「酒焼け」も声帯に負担をかけた結果。
お酒と大声とでW負荷なので声が枯れちゃうんですね。
(私も年に2回ほど、ソレをやってしまう時があります…)
お酒を飲んでいなくても、むやみに声帯に負担をかける条件が揃うと、
「焼けた声」になります。
「焼けた声」も個性ですし、
魅力的なキャラクターとして生かす方もいらっしゃるので、
そこを目指すのであれば、
ポリープが何個できようが自己責任で独走&暴走するもよし。
しかし、
喉に負荷をかけすぎずに地声を大きくしたい、
今よりも発声しやすい声にしたい、
と思う方は自己流の発声練習は無駄な時間とストレスが生じるので要注意です。
喉の機能を守るためにも、
発声練習の基本こそ、
プロの指導者にサポートしてもらいながら行うことを勧めます。
基本を習得できれば、
その後は自主トレを続けるのがベストです。
喉、声帯は筋肉組織なので、
ボイストレーニングは理論的に筋トレと同じです。
毎日トレーニングを行えば筋肉は育ちます。
やらなければ筋肉は変わりません。
とてもシンプル。
あれこれ悩むより、トレーニングやろうね。
ということです。
そして、ボイストレーニングではもうひとつの重要なトレーニングが3割ありました。
発音、滑舌の訓練です。
①アエイウエオアオ~、
と五十音の変化バージョンを口の開閉をおおげさにしながら繰り返す
②早口言葉の練習
③「外郎売」という、アナウンサーや役者の定番原稿を暗記して読む
①は基本中の基本。口周りの筋肉に日本語の母音と子音を記憶させる感覚。
顔面の崩壊を恐れずに、どんな美人でもイケメンでも大口開けて真剣に実行。
これもプロの指導を最初に受けたほうがベスト。
②は、コーチによって省略したりするなど、差がありました。
早口言葉が好きそう…と思われるコーチはココで粘ってました。
が、私はあまり重要視せず、
今でも私は指導する際に早口言葉にはあまり時間を使いません。
早口言葉はプロに指導されなくてもできますし、
ならば自主トレ時に存分にできる訓練でもあります。
③は、いわゆるバナナのたたき売りのおじさんテイストの原稿が用意され、
「拙者、親方と申すはお立会いの中に御存じの御方もござりましょうが…」
に始まり、コーチや他の受講者の前で一人ずつ原稿通りにスピーチ披露。
基本は暗記で約5分くらい。
内容が伝わるように、臨場感のある演技も要求されました。
棒読みだとコーチに張り倒されます。
そして、残りの2割でニュース原稿や司会原稿の音読を行いました。
以上の練習を繰り返し、
半年ほど経過した頃には、
ディレクターや音声さんからの、
声や滑舌に関するダメ出しは殆どなくなりました。
私本人が感じたメリットとしては、
前述のように、
①喉のつかえのようなものが無くなって声が出しやすくなったことと、
②必要な時には大きく通る声をお腹から押し出すようにして出せるようになったこと。
③イメージしていた先輩キャスターのAさんのような音階の声でトークができていると感じたことです。
でも、その後から心情的に辛くなってきました。
①と②は機能的な向上であり、
プロとしての土台を作れたので最大のメリットでマイナスはひとつもありません。
問題なのは③です。
③ができるようになったので、
ディレクターからダメ出しもなくなりましたし、
他の番組でも「トーク上手くなってきたね、アナウンサーらしくなってきた」
と褒められるようになりました。
でも、褒められるたびに私はどんどん憂鬱になってきたのです。
その憂鬱の理由は自分でもよくわかりませんでした。
ただ、これでいいのだろうか…なんか何かが違う…という捉えようのない不安のようなものでした。
憂鬱になってくると、③のイメージレベルが落ちてきます。
すると、ディレクターからまた怒鳴られました。
「ったく、またシロウトみたいなしゃべりになってるぞ!どうした!」
どうした、と言われてもどうしたもんだか…
カメラマンはため息をつき面倒くさそうな表情を浮かべてカメラの電源を落とす。
照明さんもうつむいて照明を消して下す。
ゲストが全員気の毒そうな表情を私へ向ける。
駆け寄ってきたAD(アシスタントディレクター)が私へ問いかける。
「大丈夫、次はいつものようにやろうよ。コメント確認する?」
私はADに見せられた台本を一度確認し、
「もう一度お願いします」とディレクターへ伝えました。
そして、2テイクスタート。
照明が全身にあたる。
カメラのランプが点く。
ゲストが姿勢を正す。
ADが祈るような表情をこちらへ向ける。
ディレクターがQサインを出す…
「こんにちは!本日の●●では、日常にある●●●を…。
…………、えっと…………」
途端に私の頭の中は真っ白。
覚えたはずの言葉が全く出てこなくなりました。
照明とカメラのランプが消える。
「バカヤロウ!このボケ!ヘタクソ!辞めちまえ!」
ディレクターは怒鳴り声とともに、
私へ向かって台本をおもいっきり投げました。
約10メートル離れた距離から飛んできた台本は、
私の右肩に当たって落ちました。
(なかなかのナイスショット)
スタッフ全員、ゲスト全員がシーン。
まさに、凍りつく空気。
ひんやり、シーン…。
次回に続きます。